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夏風の夢

 RO、生体工学研究所関連のお話。づまさんに捧ぐ。
 本作品は「生体工学研究所実装10周年記念ペーパーラリー in 京都」のエア参加企画となっております。つまるところ山の賑やかしの枯れ木である。
 尚、中の人はラヘルまでしかちゃんとアップデートされておりません。あとはR化とか三次職とかの時にちょろっと顔を出した程度なので、最新の状況にはまったく無知にございます。併せてご了承ください。

 メインはエレメスで、キーワードは10周年にちなんで「バースデー」。
 彼が今の彼らしくなった日、という形でまとめてみました。イメージ曲はなんとなくスガシカオさんの「真夏の夜のユメ」。嘘つきは独り、夢ばかりを見る。まあ、意外と夢じゃなかったりするんだけどね。
 あと誰にも気づかれなそうだから自分で言う。セシルを構いに行くふりしてエレメスから剥がしにいくマガレさん可愛い!

              *                   *                   *


「ところで、そろそろあたしの誕生日なんだけど」

 3階の一同の会する食堂、その壁にかけられたカレンダーを睨みつつ、そう切り出したのはセシル=ディモンである。
 そういえば暦が欲しいと言い出したのも彼女だったなと、エレメス=ガイルは回想をする。
 日の巡りも知れぬこの研究所において、そして彼らにとって、十年も一日と大差ない。そのようなものが有益とは到底思えず、一体何の為にと首を捻らされたものだ。
 けれど実際にそれが仕上がる──主に制作に携わったのは多芸な暗殺者であり、狙撃手は横をうろちょろしながら口を出すだけのお仕事に従事していた事を付記しておく──と、何くれと個々人の予定が書き込まれ、日々にちなんだ催しが企画され、暮らしにおいて欠かせぬ彩りとなった。
 戦闘以外の局面では空回りが多く見えるセシルであるが、彼女の言はこうして、誰にも読めないような遠い正鵠を射抜く事がある。

「……あたしの誕生日なんだけど!」

 自分の思考に没頭していたら、ぐいと襟首を掴まれて、間近の距離から睨まれた。
 彼女にはどうも、構われたがりの仔犬めいた気質があるなとエレメスは常々思う。
 思うが、口に出せばまた大騒ぎになるのは請け合いだ。黙って胸に秘めておく。エレメス=ガイルは空気の読める男なのだ。

「うむうむ、それは承知したでござるよ、セシル殿。是非何か贈らせていただくでござる。何かご所望の品はおありかな?」
「いやそうじゃなくてさ」
「セシルちゃんにはわたしの愛をお贈りさせていただきますわ」
「それいらないから!」
「たぁぁぁっぷり、お贈りしますわ!」
「いーらーなーいーかーらー!」

 手を組んで身をくねらせるマーガレッタから、ずささささ、と距離を取るセシル。エレメスの傍らを離れ、カトリーヌの背に隠れるようにする。盾にされた魔術師は、困ったように目をぱちくりした。

「だからそうじゃなくて! プレゼントとかそういう事じゃなくて! 誕生日ってさ、ほら、自分にとって大事な日でしょ。だから忘れちゃ駄目って思うのよね。でもよく考えたらあたし、皆の生まれた日とか知らないし。だからこの機会にちょっと書いておきたいななんて思ったりしたのよ」
「ああ、まあいいんじゃねぇの。唐突に言われるよりは、準備のし甲斐も出てくるしな」

 2階のチビどものも訊いとくか、と、これはハワードの言である。
 縁の下の力持ち的な立ち位置を取る彼であるが、騒がしい港町の出であるからか、お祭り騒ぎを存外に好むのだ。

「で、いつなのよ?」
「何がでござる?」
「だからあんたの誕生日! 忘れちゃダメなのを一番忘れてそうなのがあんたなのよ、あんた! どうなのよ、エレメス=ガイル!」
「あー、いや、拙者は……」

 カトリーヌの後ろから名指しされ、エレメスは少々困った。
 彼女の感性は、至極真っ当なものだ。
 けれど彼にはなかった。祝われれて生まれた覚えも、生まれた事を祝われた記憶も。ただ生きる延びるのに必死で今ばかりしか見なければ、日付など少しの意味もなくしてしまう。
 無論シーフギルドに飛び込みアサシンに身を落とすような輩など、大体が似たり寄ったりの境遇だ。 
 エレメスは己を格別哀れと思わなかったが、語れば不快を感じる者もいるだろうとの想像はつく。

「セシル、エレメスは」
「エレメスはお友達が少ないから、今まで祝ってもらえなかったのですわ。そうやって拗ねているうちに、とうとう自分の日を忘れてしまったのです。なので」

 両者の間の空気を、主に友人の困惑を察して生真面目に真実を切り出しかけるセイレンを、マーガレッタが明るく遮った。

「セシルちゃんのお誕生日がエレメスの誕生日というのはどうかしら。一緒にお祝いなんて素敵よね?」
「──ふ、ふざけないでよ! こんなのとお揃いなんてゴメンだからね! 死んでもゴメンなんだからっ!」
「あら、あら。ではエレメス、可哀想ですから私と一緒の日にしてあげます。勿論、異存なんてありませんわよね?」
「は! 姫のご裁可とあらば、拙者如何様にも!」
「それはダメ! なんでって、とにかくダメー!!」

 ぎゃあぎゃあと騒がしいセシルを他所に、「そんならよ、エレメス」と顎を撫でつつハワードが問う。

「お前さんの好きな季節ってのはいつだい?」
「好きな季節、でござるか……」

 ふーむ、と暗殺者は腕を組み、

「敢えて申さば、夏にござるかなあ」

 国土の大半が砂に飲まれたモロクであるが、そんな土地にも水が湧き、草の茂る小規模なオアシスが点在している。死を直感させる昼の暑さの中においても、そこには湿気ではなく涼を含んだ心地良い風が吹くのだ。
 そんな夏の木陰で、安らいだ記憶があった。
 旅する者とて少ない砂漠の只中。周りに誰一人もない状況だからこそ、あらゆる警戒レベルを落として寛げる。
 人を寄せ付けず孤独を好む、狷介な性も。
 明るく誰にでも気さくな道化の仮面も。
 そのどちらもを脱ぎ捨てて、独り目を閉じ、心を緩められる。
 夏の風には、そんな安息の印象があった。

「意外」

 彼の答えに、カトリーヌがぽつり漏らした。

「左様でござったか?」
「ん。エレメスは、秋っぽい」
「その心は?」
「ロマンチスト、だから」
「……斯様な評価は初めて頂戴するでござるよ」
「ま、男のロマンはさておいて、だ。そしたらよ、夏のどっかでいいんじゃねぇか? 全員分出揃ったらどことも被らねぇように調整してよ。めでたい事は途切れなくあるようにしようぜ。その方が」

 くい、と鍛冶師は酒盃を傾ける仕草をして見せて、

「遠慮なく呑む口実になるからな」

 めでたい事、などと明言されて、その陽性に尻の座りが悪くなる。
 少し余計な虫が騒いだ。無益な自嘲が口を突きかけたところを、セイレンに目で制された。

 ──お見通しか。敵わんでござるなあ。

 胸中でも剽げて嘯き、エレメスは頭を掻く。
 素直に、ありがたく受け取るべきであるというのに。こうした穏やかな扱いを、自分には不相応とつい感じてしまう。
 これは自ら巻きつけた鎖なのだろう。誰かの手を借りねば解けぬほどに、厚く。

「であればそういう事にしてもらうでござるかな。拙者、お祝いのプレゼントに期待でござるよ」
「おう、楽しみにしとけ。オレのあ──」
「それはノーセンキューにござる」
「随分と食い気味の反応じゃねぇか」
「もうちょっと入りを工夫するでござるよ」

 失言の代わりに他愛なく言い交わし、エレメスはひらひらと手を振る。視界の隅で、友がゆっくりとひとつ頷くのが見えた。

 ──まったくお節介な事だ。お前の方が、よっぽどに不器用者だろうに。

 毒づきながらもエレメスの口元は、我知らず笑んでいる。
 
「拙者のについてひとまず置いて、今は間近のセシル殿のにござるな。拙者、腕を振るって馳走を用意するでござるよ」
「べ、別にあたしの為にそんな気張らなくてもいいんだけど?」

 告げるとセシルは一瞬顔を輝かせ、それからつんとそっぽを向いた。
 その隣でもっと目を輝かせているカトリーヌは、精神衛生上の都合で見なかった事にしておく。

「その手の食卓の誂えは当然として、セシル殿」
「何よ?」
「他に、欲しいものはあるでござるかな?」
「あ、あたしは、えと、その……」
「拙者らの仲でござるから、恥ずかしがらんでも大丈夫でござるよ。遠慮なく言うでござがふっ!?」

 言いよどむ彼女にずずいと寄ったら、後ろ頭を強烈に鈍器ではたかれた。

「セシルちゃんを困らせるなんて、貴方最低のクズですわ。女の敵のクズですわね」

 お定まりのやりとりで床に打ち伏して見せながら、エレメスはしばしまぶたを閉じる。
 かつては。
 自分以外の人間など、殺害の対象か、その障害かでしかなかった。
 だがいつしか変わっていた。少しずつそれは変わってきていた。

 自らの鎖を認識し、人であろうと、人でありたいと身悶えをする。
 そんな今の自分が産声を上げたのは、皮肉ながらも間違いなくここでだ。
 彼らと出会って、それからの事だ。
 誰かと共に息をしながら、こうも心安らぐ日が来るなどと。あの頃の己に告げたところで、決して信じはしないだろう。

 そっと、心を緩めて。
 仲間たちの喧騒を、あの夏風のように彼は聴く。
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鵜狩

Author:鵜狩
鳴かぬなら 鳴くのにしよう 不如帰

 小説家になろうにて物語を書き撲っております。

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