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一流の系譜

 RO、生体工学研究所関連のお話。桂戸あけやさんに捧ぐ。
 本作品は「生体工学研究所実装10周年記念ペーパーラリー in 京都」のエア参加企画となっております。つまるところ山の賑やかしの枯れ木である。
 尚、中の人はラヘルまでしかちゃんとアップデートされておりません。あとはR化とか三次職とかの時にちょろっと顔を出した程度なので、最新の状況にはまったく無知にございます。併せてご了承ください。

 メインはラウレルで、お題は「『あれはひっそり愛でるもの』等とコメントしていたラウレル師匠が、セニアと直接絡むとどうなるのかが見たい」でした。ひっそり愛でる云々はリーグ戦のこのくだりである。
 弄りまわした結果、特になんとも思ってなかったクラスの可愛い子と急に距離が近くなって意識しちゃう中学生的展開になりました。書いててラウレル君は、ギャルゲー的主人公力が高いなあという心境に至る。
 あとbee stingsの意味は、文脈からどうぞお察しください。


             *                   *                   *


 発端は、ちょっとしたものぐさ心だ。
 だが戦闘が発生したのは彼らの居住ゾーンから一等離れた地点であり、そして撃退した侵入者がたまたまに落としたのが、ハエの羽と呼称される無作為瞬間転移用小型魔法具だった。

 ──歩いて戻んの怠ぃし、運が良けりゃ一発でいいとこ飛ぶだろ。

 この条件下で彼がそんな判断をしたとしても、別段責められるべきはない。
 ただ、その後がよくなかった。大変によくなかった。

「くそ、なんだってんだよ……」

 自室で自堕落に転げたまま、ラウレル=ヴィンダーは悶々と寝返りを打つ。
 何気なく転移した彼が着地したのは、驚くべきかイグニゼム=セニアの私室だった。しかも事もあろうに、彼女は鎧下を脱いでの着替え中だった。

 無防備に晒された肌は、寝室の薄明かりでも眩いほどに白かった。
 彼女の長く青い髪が彩るようにその素肌の上を這っている。それは白地に陰影を加え、覆い隠す役割よりも、果実の甘やかさを際立たせる務めこそを強く果たした。
 平素アームガードに隠された腕は想像よりもずっと華奢で、そこから少女らしいまろやかな肩から鎖骨の曲線を辿った先の首は、手折れそうに細かった。
 声もなく一瞬見惚れたラウレルの頭が状況を理解するのと、テレポートインの魔法音に反応した彼女が振り向いたのとは、ほぼ同時だった。

 幸いにも理性的な対応をしてくれたセニアのお陰で、彼は情状酌量による無罪放免と相成った。
 彼らのプライベートスペースには質量デコイが敷設されている。これは起動した転移術の空間認識に割り込み、何もない空間を大質量が占有するものと誤認させる働きを持っていた。つまるところ壁や石などの固定質量と同座標に出現する事のないようにと術式自体に幾重にも施された安全機構を逆手に取った、転移による侵入防止策である。
 今回のラウレルの事故は、万端と思われたその綻びの発見だったのだ。
 事態の本質を考えればお手柄と賞すべき出来事で、実刑判決を免れたのはある意味当然とも言える。
 だがそうした理論や理屈を飛び越えて、ラウレルは眠れずにいる。

「私、気にしてませんから」

 そう言いながら、無意識に自分の体を庇うようにするセニアの姿が脳裏に浮かんだ。しゃんと背筋を伸ばして背伸びした、いつも通りの立ち居振る舞いでありながら、彼女の挙措はどこか、怯えて震える小動物に似ていた。
 ずきりと罪悪感が疼く。
 その疼きを更に加速させるのが、それと交互に立ち現れるセニアの裸身の幻影である。
 口だけ番長のラウレルであるから、無論同世代の異性の肌を間近で拝むなど初めての事だった。目に焼きついて離れないのだ。
 どこぞのおっぱい馬鹿に染められたわけではないが、ラウレルとしても大きいほうが好みだ。断然好きだ。人は己にないものに憧れるという。ならば男が豊かな女性に憧憬するのは自然の摂理であると言えよう。
 よって自分はあんなビースティングスなど歯牙にもかけないし、故に動揺など一切ない。
 ないはずだ。
 はずだった、のに。

「ラウレル、いる?」

 頭を抱えて芋虫のように蠢いていたところへ、ノックと、囁くように静かな声がした。それはハイウィザード、彼の姉貴分たるカトリーヌ=ケイロンのものだった。

「な、なんだよねーちゃん、こんな時分に?」
「報告。デコイ、ちゃんと直したから」

 言いながら扉を開けると、ぶい、と立てた二本指を突き出された。

「あ、悪ぃ。任せっぱなしにして」
「大丈夫。平気」

 この研究所における魔術的分野のやりくりは、ほぼラウレルとカトリーヌの独壇場である。
 マーガレッタ=ソリンも甚だ優れた術師であるのだけれど、彼女はどうもフィーリングで魔法を行使している節があって、体系立った応用や長期的な術式の構築に向かないのだ。
 つまりラウレルにしてみれば、自分がサボった分がそっくり姉の負担になるわけで、それを承知していながらひとり自室でごろついていた事には反省を禁じえない。
 けれどカトリーヌはゆっくりと首を振り、それから何か恥じらいを含んでもじもじしだした。普段なら事務的に要件だけ述べて撤収するのが常であるのにと訝しんだら、そこで名を呼ばれた。

「ラウレル」
「あ?」
「セニアは、いい子。とってもいい子。それはわたしも知ってる。それから男性の性欲には理解を示すつもり。でも無理矢理はダメ。絶対、ダメ」

 はしばみ色の瞳が、めっとラウレルを睨む。
 数秒して、とんでもない誤解をされているのだと気がついた。

「ち、違ぇからな! そういうんじゃなくて、あれは事故だ、事故!」
「とにかく、そういう事」

 おっとりのんびりとしたいつもとは異なる性急さでカトリーヌは身を翻し、そこへ「ちょっと待てよ!」と大慌したのが悪かった。肩口のケープを捕えるはずだった手は狙いを誤り、ふにょっとやわらなものを握り締める。
 ふに、ふに。
 思わず二度ほど感触を確かめてしまったのは、青少年として致し方ないところであろう。
 
「……ラウレル」

 はっと我に返れば、そこには羞恥に真っ赤に染まった姉の顔。加えて、ほんのりと涙目である。

「待て。誤解だねーちゃん。これは事故。そう、不幸な事……」

 その日、眠れずにいた彼を人事不省に陥れたのは、連続して炸裂する雷球であったという。




「くそ、ひでぇ目に遭った」

 翌朝のラウレルは、当然ながら不機嫌だった。
 昨夜はあの後、お望み通り死んだようにぐっすりと眠れたわけだけれども、お陰様で体の節々がまだ痛い。あの姉は温厚なのだが一度怒ると持続が長い。誤解を解きつつ上手くなだめねばと思うと頭も痛い。
 多分食べ物で釣るのが一番なのだろうけれど、すると財布が痛いじゃすまない破目になるだろう。まったく、とんだ災難続きだ。
 ぐしゃぐしゃと赤毛をかき回しながら、それでも彼は部屋を出て食堂へ向かう。
 すると、

「あ」
「お」

 途上で出くわしたのが、よりにもよってイグゼニム=セニアだった。
 ラウレルは内心頭を抱える。どうなってんだ本当に。これ、誰かになんか仕組まれてたりすんじゃねぇのか。

「お、おはようございます」
「お、おう」
「……」
「……」

 ぺこりと頭を下げられて、そこから会話が続かない。どちらかが歩み去ればいいのだが、セニアもラウレルもつい足を止めてしまって、そこから動き出すきっかけを見失っていた。
 なんだよおい、どうすりゃいいんだ。
 とりあず謝っとくか?
 いや、それはおかしい。セニアは昨夜も弁護する側に回ってくれたわけで、こちらの事情も心得ている。ここで蒸し返しても却って気まずくなるばかりだ。
 じゃあそしたら褒める?
 いやいやいやいや、なんだその選択肢は。もっとおかしいだろ。カヴァクくらいしか選ばねぇよ。

「あれあれ、どうしたんだいラウレルにセニア? 見つめ合って顔赤くして、二人とも初めての次の朝みたいな感じになってへぶっ!?」

 これもまた噂をすれば影と言うべきか。聞き馴染んだ呑気声がしたのは、脳裏にその名を浮かべた途端だった。

 ──お前っていらないところに現れるよな。あとどうしようもなく余計な発言しかしねぇよな。

 ほぼ条件反射のように拳を叩き込みながらラウレルは思う。

「おいカヴァ公。オマエちょっと黙れ。いいか。殴られたくなかったらちょっと黙れ。わかったな?」
「もう殴ってるから。君、言いながらもう殴ってるから!」

 まるで応えた様子も見せず、カヴァクは素早くラウレルの攻撃圏外に避難。

「へーんだ、お邪魔しましたよーだ。ラウりんのばーか、ばーか。浮気者ー。後は若いふたりにお任せしますよーだ!」
「てめ……!」

 もう2、3発、拳骨を追加してやろうと駆け出しかけた、そのローブの裾を「あの!」と子犬のような眼差しで掴まれた。

「あ? なんだよ?」
「待ってください、ラウレル。話があります」
「……ああ?」
「私、ラウレルが初めてなんです!」

 おい馬鹿やめろ。お前は何を口走ってるんだ。馬鹿は今逃げてった馬鹿の専売特許だろ。  

「剣士ギルドでの訓練は女性は女性、男性は男性で別個になっていましたから、私、兄さ……兄以外の男性と話す事は少なくてですね、だからちゃんとした男の子の友達って、ラウレルが初めてなんです」

 ああ、そういう意味か。
 ほっとしたような残念なような、なんとも複雑な胸中で納得しかけ、ちょっと待てよと首を傾げた。

「イレンドはよ」
「え?」
「イレンドだって、お前の男の子のお友達だろ」

 カヴァクの馬鹿が、なんとなく員数外扱いされてるのは理解できる。謹厳実直なこの剣士の娘にとって、あの弓使いは軽佻浮薄が過ぎるってものだ。ちょいと噛み合わないのだろう。
 だが物静かで真面目で知的で儚い雰囲気の聖職者の少年の名が、友人として上がってこないのは不思議だった。 

「……イレンド? あ!」

 一瞬考えるようにしてから、セニアは「失敗した」とばかりに片手で口を覆った。
 オーケーオーケー、皆まで言うな。わかったわかったよくわかった。あいつ、女の子チームにカウントされてやがったな。

「と、とにかくですね。ラウレルにはいつも忌憚のない意見をもらったり、私の思慮の盲点を指摘してもらったりしています。最初はちょっぴり怖いとも思いましたけど、今は全然そんなふうに感じてません。だからですね、昨日の一件を引きずって、変にギクシャクはしたくないんです。今後もずっと、仲良くしていきたいと思ってるんです」

 力説しながら、セニアは戻した両手でローブをしっかり握って離さない。
 つーかなんだよ、その上目遣いは。床とオレの顔とを行ったり来たりのうるうる目は。わざとやってんのか、それ。ならやめろ。いいからやめろ。今すぐやめろ。
 オマエがお兄様ラヴだってのは、こちとらとっくにご存知なんだよ。ご存知なんだけど、そういう振る舞いされると意識しちまうだろ。ふざけんな。あと顔近ぇよ。いい匂いがするんだよ。

「それに、今みたいに会った途端難しい顔をされると、その、胸が痛いです。そういうのは嫌なので、えっと、ええっと」
「別に」
「はい?」
「別に、お前の事が嫌いだから変顔したわけじゃねぇよ。昨日の今日で面突き合わせにくかっただけだ」

 そうでしたか、と安堵して頷くセニア。
 ほっと眼差しを緩めるけれど、まだ裾は離してくれない。

「あれは徹頭徹尾事故だったけど、オレもちょっとは悪かった。すまねぇ。で、こうして謝ったからこれでもうすっぱり手打ちで以後双方気にしない。そういう方向でいいな?」
「はい、是非それでお願いします」
「あいよ。じゃあそういうわけだ、今後ともよろしくな、リーダー」
「はいっ!」

 ぱあっと花が咲きこぼれるように彼女は笑う。

「これからもよろしくお願いしますね、ラウレル」

 見蕩れかけたのを悟られぬよう、ラウレルはぷいと他所を向いた。
 そのまま「もういいだろ」と手を振り払い、踵を返して歩き出す。

「あ、どこへ?」
「先行ってろ。オレはあの馬鹿拿捕してから行く」

 返事は聞かずに足早に離れて、それからラウレルは研究所の石壁を蹴った。
 いやいやいやいや何考えてんだオレは。頭おかしくなったのか。
 セニアとセイレンなんぞ、それこそ全世界公認みたいな扱いだろ。お互い無自覚に相思相愛だろうが。そこに割って入る気か。どういう無謀だラウレル=ヴィンダー。
 フル回転で自らを戒めようとしたものの、昨夜の幻に続けて、今度は先ほどの笑顔がこびりついて離れない。
 勝ち目なんざねぇよと否定しつつ、思ってしまう。あれが自分に向けられたなら、自分だけに向けられたなら、ひどく幸福だろうと。

 ──ああでも。

 赤毛をぐしゃる手を止めて、ふっと彼は思い出す。
 
 ──ひょっとしたら、もしかしたらレベルだけど、うちのねーちゃんも、なんだよな。

 2階と3階、それぞれを担当して住み分けているから、その態度を常々観察しているわけではない。
 けれど無感情で無機質な人形めいたカトリーヌは、セイレン=ウィンザーの前でだけ、ちょっぴり様子が違うように思う。具体的にどこがどうとは言えないけれど、でも確定的に違う気がするのだ。
 そうすっとオレが動いたらねーちゃんへの援護射撃になるんじゃあ、などと続けかけて、だからオレはどうしちまったんだと額を抑えた。なんだよこれ。なんだこのザマは。乙女か。

 というかあいつら、あいつらこそホントになんなんだ。
 イグニゼム=セニアといい、セイレン=ウィンザーといい、あの剣士どもは一体全体なんなんだ。どうしてこうも簡単に、人様の心に忍び入ってきやがるんだ。
 タラシだ。くそ、あいつらタラシだ。超一流のタラシの系譜だ。
 もしかしてプロンテラ騎士団ってのは皆そうなのか。こういう手合いばかりを集めて訓練を重ねてた魔窟なのか。
 ここまできたら、もう認めちまう他にないじゃねぇかよ。そうですよ、ああそうですよ、惚れた惚れた、惚れました。
 ふざけんなよ悪いかよと力なく毒づいて、ラウレル=ヴィンダーは力なく額を壁に押し当てた。
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鵜狩

Author:鵜狩
鳴かぬなら 鳴くのにしよう 不如帰

 小説家になろうにて物語を書き撲っております。

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