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声を聞かせて

 RO、生体工学研究所関連のお話。
 本作品は「生体工学研究所実装10周年記念ペーパーラリー in 京都」のエア参加企画となっております。つまるところ山の賑やかしの枯れ木である。
 尚、中の人はラヘルまでしかちゃんとアップデートされておりません。あとはR化とか三次職とかの時にちょろっと顔を出した程度なので、最新の状況にはまったく無知にございます。併せてご了承ください。

 メインはハワード。
 集団における立ち位置を俯瞰して、きちんと箍をはめてくれる桶屋さんの話。目的意識があって、対人関係の潤滑油になれて、尚且つ縁の下の力持ちが出来る人って貴重で大切だと思います。
 この話の中でも声から始めて声で締める方向性だけれども、一応『夏風の夢』のラストも、声で結んでいたりするのでござんすよ。


              *                   *                   *


 鉱物は何も語らない。それが常識だ。
 だが、違う。
 少なくともハワード=アルトアイゼンは、「違う」と考える。それは囁きかけてくる事がある。自分にどういう形が適しているか。どう鍛えるのが最適なのか。それを訴えてくる事が確かにある。
 無論、これには技術的な直感が働いているのだろう。
 積み重ねた経験から来る肌の感覚。言葉にはできない1未満のシグナル。それを自分は無意識に総合し、1以上の“声”として知覚しているのだ。
 だから鍛冶師に必要なのは待つ事だ。
 その金属が十分にこちらを信頼し、鋼の秘密を打ち明けてくれるようになるまで。
 丹念に腕を磨いて、その時を待つ事だ。
 そう、ハワードは思っている。

「というわけでな、姫さん。オレがエレメスと仲良くするためのアイデアをくれ」

 どっかりと食卓の椅子に腰掛けて、ハワードはマーガレッタに問いかける。
 対面の彼女は「はあ」と何とも言えない息をつき、肘を立てて組んだ両手の上に、形のいいおとがいを乗せた。

「内密の話があるなんて袖を引くから、何かと思いましたわ」
「本人の前じゃあ、ちょいとしずらい話だろう?」
「それは、まあそうですけれど。とりあえず、ふたつ、よろしくて?」
「おうよ」
「どうして、エレメスと仲良くしたいんですの?」
「そうさなあ」

 ハワードは組んでいた腕を解き、「構わねぇかい?」と了解を取ってから煙草を咥えた。腰の短剣を顔に寄せて鯉口を切り、僅かに覗いた刀身に押し付ける。軽く息を吸い込むと、火性を宿した刃の熱で小さな炎が灯った。

「なんというかなあ、オレだけハブられてんだよ」
「はぶ……?」
「前衛男三人組ん中で、オレだけ呼吸が通じてないのさ。連携にしろ何にしろ、どうもワンテンポ遅ェ」

 それはエレメスとセイレンが気脈を通じすぎているのではないかしら、と思ったけれど、マーガレッタは口には出さない。ハワードの本題はそこではないようだったし、あの二人のツーカーぶりがなんとなく癪だったからだ。

「で、そこらを調整しようと思ったんだがな、セイレン、あいつはいいんだ。わかりやすい。こっちが先に腹を割って見せれば、それにきちんと応えてくれる男だ」

 極上の褒め言葉として、ハワードは呟く。
 セイレン=ウィンザーという男には、鍍金も何もない。ただ地金のみの人間だ。無垢鍛えにも似て製法は単純明快だが、しかしああまで逸脱したひと振りとして仕上がる刃は希だ。
 折れず曲がらず鋭さを保つ。研ぎ澄まされ研ぎ上げられたあの境地は尊敬に値する。
 だが途方もない高みにあるそれは、シンプルなものをこつこつと重ね上げた結果だった。真っ当に、順当に積み上がっているから、どうしてそうなったのかの道筋が見える。
 だからこそ理解しやすく、故に十全の信頼が置ける。

「だがエレメスはなァ。あいつ、親しみ易そうな顔しておいて壁があんだよな」
「ええ、そうですわね」
「しかも入口って書いてあるところが行き止まりだったり、壁のない裏庭に見えて地雷原だったりするだろう。しかもおっかなびっくりにお面被って接してきやがるから、こっちも単刀直入をぶっちゃけにくい」 
「ええ。本当に、そうですわね」

 マーガレッタの首肯を得ながら、ハワードは煙を吐いた。
 エレメス・ガイルは、セイレンに対して真逆だ。硬軟入り混じって本質が捉えがたい。底抜けに陽気に剽げるかと思えば、次の瞬間恐ろしく凄惨な鬼相を垣間見せる。悪い意味で得体が知れない。錬金術師の手による、度外の魔術的鍛造法のようですらあった。
 それでいてセイレンとエレメスの二人は、阿吽の呼吸の親友なのだ。
 ますます以て理解の及ばぬところである。

「ま、悪いヤツじゃねェとは承知なんだ。じゃなけりゃそもそも、仲良くしたいなんざ思わねェしな」
「大体はわかりますし、わかりました。ではもうひとつですけれど、どうしてそれを訊くのが私なんですの?」
「姫さんかセイレンが、一等あいつを把握してるだろうと思ってな」
「その二者択一なら、セイレンに打診するべきではないのかしら。相談と一緒に仲も深められるでしょう?」

 いやまあその通りなんだけどよ、とハワードはがりがり頭を掻いた。

「この手の事にあいつは駄目だ。正論と王道が鎧兜つけるような生き物だから、小技が効かねェんだよ。普通に『真っ当に声をかければ問題ないと思うが。実際、俺はそうしてエレメスと友誼を結んだ』くらいを言いそうでな。オレにはちょいと、あの人誑しは真似できねェ」
「あらあら。セイレンにも困ったものですわね」

 マーガレッタは上品にくすりと微笑み、それから組んでいた手を解いて居住まいを正した。

「でも、ごめんなさい。そういう事でしたら、私も力にはなれませんわ。エレメスに──彼については、私もよくわからないんですもの」
「そうか」

 ため息のような返答に、「そいつァ困ったな」とハワードは頬杖を突き、

「あいつの事をよく見てるから、姫さんなら色々ご存知かと思ったんだがなァ」
「ねえハワード。私、デリカシーを欠く殿方は嫌いですの」

 にっこり微笑む口元とは裏腹に、目が笑っていなかった。

「失言だった。忘れてくれ」

 苦笑して詫びを入れると、マーガレッタは優雅な会釈でそれを受け、それから悪戯を思いついた小娘のような色を瞳に浮かべた。

「それにしても、貴方」
「あん?」
「意外と言っては失礼ですけれど、とても繊細なのですわね。随分とよく機微を把握してます」
「馬鹿言うな。当たり前だ。大雑把で目端の利かねェ人間が、金属と付き合えるかよ」
「でも気をつけた方がいいですわ。誤解されてしまいますわよ」
「ん? 一体何をだよ?」
「エレメスとの関係を、ですわ。だって先の口ぶり、まるでエレメスに恋でもしているみたいでしたもの」

 彼女にしてみれば軽い冗談口、ハワードの熱意をからかうだけの意図だったのだろう。
 しかし、

「ああ──そうかもしれねェな」

 返った答えは想定外のものだった。

「は? え、ちょ……私、耳がおかしくなったのかもしれませんわ」
「そうかもしれねェって言ったのさ」
「!!??」

 取り乱した挙句絶句するマーガレッタ=ソリンなど、見たくとも見れるものではない。だが残念ながら、ハワードは意識は眼前から逸れている。
 思い浮かべるのはエレメス=ガイルの事だ。そしてセイレン=ウィンザーの事だ。
 あの二人のコンビネーションは、彼がそれまで見てきたどんな練達のものよりも上だった。
 まるでふたつにしてひとつの生き物のようだった。さながら双頭の龍の如くだった。
 陰に陽に、視線すら交わさず、その刹那ごとの互いの役割を熟知する。自在に対象をスイッチし、或いは死角に忍び、或いは正面から撃ちかかる。セイレンの影にエレメスが忍び、エレメスの生み出す一瞬の隙をセイレンが斬り開く。
 双方が双方の癖を知悉し、技量と判断への完全な信頼を前提に生まれるそれは、一と一を足して十にも二十にも変えてのける動きだった。
 無駄など僅かもなく、ただ目的の為だけに専心して鈍磨された機能美。刀剣の煌きにも似た美しさがあった。
 あれを見た鍛冶師ならきっと思うはずだ。こういう連中の為にこそ武具を打ちたい、と。
 そして自らも大斧を縦横無尽に振るう戦闘技量を持つからこそ、ハワードはこうも思った。
 自分もそこに肩を並べられたなら、それはとても気分の良い事だろうな、と。
 確かにこの感情は、指摘の通り恋慕に似ている。





 翌朝。

「よ、寄るなでござる!」

 ハワードが朝食に顔を出すと、それを見たエレメスが、飛び下がって壁に張り付いた。拙者は姫一筋でござる云々と、わけのわからぬ事をまくし立てている。
 なんだよそのリアクションはとしばし呆気にとられ、それからにこにことお上品にティーカップを傾けているハイプリーストが目に止まった。
 先程までエレメスの甲斐甲斐しい給仕を受けていたマーガレッタ。その楽しげな笑みでぴんと来た。
 これは彼女の差し金だ。おそらく昨日の話を、ある事ない事膨らませて上手い事エレメスに吹き込んでくださりやがったのだろう。

 そして同時に悟る。
 この大仰なまでの反応は、とっつきにくいと評されたエレメスからの回答なのだ。場に馴染むべく道化を演じる彼から割り振られた、ちょいと付き合いを気安くする為のロールプレイなのだ。
 本当に関係を避けたいのなら、また本気でこちらを厭うなら、それこそ路傍の石のように捨て置いて歯牙にもかけぬのがエレメス=ガイルの本来であろう。
 だからこれは譲歩なのだ。いきなり胸襟は開けぬものの、交友を深めるのはやぶさかではないと。
 大変わかりにくいながら示された回答であり、そういう意図で伸ばされた階なのだ。
 するとまあ、脈がある、と表してもいいのだろう。
 ならば、するべき事は決まっていた。

 にいっとハワードは笑う。野太い、餓鬼大将の笑みだった。
 いいぜ。とりあえず今は、そんな役どころで我慢しておいてやるさ。

「そうつれない事言うなよ。人間、逃げられると追いたくなるもんなんだぜぇ?」
「や、やはり拙者の尻が狙いでござったか!」
「てなわけで、どうだいエレメス。オレと今夜」
「脳天かち割られて脳漿撒き散らすか喉笛掻っ切られて血飛沫吹き散らすか選べでござる」

 にっこりと、マーガレッタは優雅にカップを唇へ運ぶ。
 カトリーヌは常にない素早さで、何故だかセイレンの目を覆っていた。
 耳まで真っ赤にして、がたっと席を蹴立てるセシル。何か言おうとしたものの、かける言葉がないらしく、ひたすらに口をぱくつかせている。
 どたばたとエレメスを追いながら、心中でハワードは苦笑する。

 ──どうも、姫さんの不器用を笑えねェな。

 類稀なる能力を備えながら、かつて、彼らは敗れた。レッケンベルという組織と、個々に抗って粉砕された。その結果が、今のここだ。
 だが状況は最悪ではない。
 自分たちはまだ“生きて”いる。
 であれば決して終わってなどいない。まだ足掻く事ができる。まだ、先を見る事ができる。
 だから、彼には希望があった。

 レッケンベルが目を付け、かき集めてきただけあって、この研究所の面子という素材は折り紙付きだ。
 そして極上の鉱石を見て心を沸き立たせるのが、理想の形を夢想してしまうのが職人というものだ。
 エレメスの。セイレンの。マーガレッタの。カトリーヌの。セシルの。
 のみならず、上のガキどもまで全部まとめてひっくるめたそれぞれの“声”を聞き、各々の個性を十全に発揮するパーティを組み上げ、鍛え上げられたひとつの刃として鍛造する。
 それが彼の夢だった。
 そうしてその切っ先を、レッケンベルの喉元に突きつけてやろう。二度と繰り返さないように。二度と繰り返せないように。
 そんな仕業が決して不可能ではないと、完成された騎士と暗殺者の立ち回りが教えてくれた。

 だがそんな大義名分は別として、まあ、つまるところ。
 自分はこいつらを気に入っているのだ。とても。
 ハワード=アルトアイゼンは待つ事を知っている。階は一段飛ばしで昇るものではないと承知している。
 また、理解もしている。
 一見無駄めくこんなやり取りこそが、いい思い出になる。そして思い出は力をくれる。過去に属するものでありながら、現在を歩んで未来に至る力をくれる。
 遠く、だがきっと掴み取れるはずの明日を見据えて。
 彼はただ、鋼たちの声に耳を澄ます。
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鵜狩

Author:鵜狩
鳴かぬなら 鳴くのにしよう 不如帰

 小説家になろうにて物語を書き撲っております。

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