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Clown in the mirror

 RO、生体工学研究所関連のお話。さくらさんに捧ぐ。
 本作品は「生体工学研究所実装10周年記念ペーパーラリー in 京都」のエア参加企画となっております。つまるところ山の賑やかしの枯れ木である。
 尚、中の人はラヘルまでしかちゃんとアップデートされておりません。あとはR化とか三次職とかの時にちょろっと顔を出した程度なので、最新の状況にはまったく無知にございます。併せてご了承ください。

 メインはマーガレッタで、お題的なものは「今なら全部我慢して、『さよなら』って笑ってあげられる、って別れを切り出すエレマガを幸せにしてあげてください」。ぶっちゃけ勝手にかっ攫ってきた。あとお題とか言いつつ、ちょっぴり文章変えちゃいました。てへ。
 マーガレッタの口調は、エレメスの「ござる」と同じく作ってる雰囲気だったので、中途喋りを変えてたりします。キャラクター崩壊っぽく感じられるかもしれませんので、そういうのがお嫌いな方はご注意を。
 あとエレメっさんは調子悪そうなので心配してこっそりついていってたので、ハラキリダイブが間に合ったような感じです。
 タイトルはRoyal Huntの曲から。歌詞がこう、そんな感じかなあ、と。……べ、別にぱっと思いつかなかったわけじゃないんだからね!
 あとこの二人はくっつくまで面倒そうなこの二人だけれども、くっついたらくっついたで「エレメス、愛してる!!」「マーガレッタ、愛してる!!」と結婚スキル連打しまくった挙句、
「今のはスキルだから仕方ないでござる」
「今のはスキルだから仕方ありませんわ」
 とかハモってぶっこいて周りを辟易させるタイプに違いないと思う。
              *                   *                   *


 暗い部屋の寝台の上、マーガレッタは裸身を起こした。
 素足を床につけると、まだ行為の余韻を淡く残す肌を、ゆるゆると紅の法衣で覆っていく。
 衣擦れは、別段気にもしなかった。寝息を立ててみせてはいるけれど、どうせ彼──エレメス=ガイルは眠ってなどいない。
 いつだって、そうだ。
 他人の温度を傍らに添わせたまま、暗殺者は熟睡などしない。まるで誰にも心を許さない獣のようだった。
 ベッドに腰掛けたまま身支度を終え、マーガレッタは法衣に忍ばせてあるブルージェムストーンを手に握り込む。それは転送印を記した場所同士を繋ぐ、転移法術の触媒だった。
「おてんばソリン」などと揶揄された頃も悪く用いた法術だけれど、今はもっと狡く扱っている自覚があった。
 体だけの関係を秘匿する為に自らの秘蹟が行使されていると知ったなら、天の上の神様はどんな顔をするだろうか。
 思いながらマーガレッタは目を閉じる。微かに、自嘲めいた笑みが口元を掠めた。

「もう、戻るのか」

 きしりと寝台を軋ませ立ち上がったところへ、声が投げられる。いつも通りのタイミングだった。
 振り向かずに「ええ」とまず短く応じ、

「私たちの事が露見するのは、万が一にも避けたいですから」
「そうか」

 返る言葉も短く、また素っ気無かった。エレメスに、元から強く引き止めるつもりはないのだ。
 黙って隣を去る後ろめたさ。逃げるように部屋へ戻る後暗さ。そうした心を軽くする優しさのつもりなのだと、マーガレッタは理解している。エレメスは誰にでも、小器用に気を回してのける人間だ。
 でも。
 そんな通り一遍の優しさなんて欲しくはなかった。
 誰にでも優しいなんて、それは誰にも優しくないのと同義ではないか。
 自室への転送門を起動しながら、思う。
 貴方の全部が私のものにならないのなら。
 ──ひとかけらだって、私はいらない。


 *


 鬱屈を抱え、眠れずに朝を迎えたからだろう。
 その日、マーガレッタはひどく集中力を欠いていた。常ならば気づいて然るべきアンブッシュを許したのも、結局のところはそこに起因する。
 2階からの降りてきてすぐの高台。その壁沿いの死角に潜んでいた槍使いは、戦線維持において最も力を発揮する司祭をまず除外しようと目論み、ぼうとしたまま巡回に通りがかった彼女を狙い澄ました。
 一気呵成に殺到し振るわれた槍技はマーガレッタの体を高台の縁を越えて大きく跳ね飛ばし、あっと思った時には、全てが終わっていた。彼女の足下には、ただ虚空があるばかりである。
 反射的に手を伸ばしたけれど、無論届くはずもない。
 ああ、落ちる。
 聡明な分、マーガレッタの諦めは早かった。この高さだ。とても無事には済まないだろう。けれど上手く頭を庇えば、きっと死ぬまではいかないはずだ。多分痛いけれど、凄く痛いけれど、でも大丈夫。それくらいなら私はすぐに立ち直れる。そうしたら治療を施して──。
 自分を襲うはずの痛みとその後の対処を閃光のように思い浮かべ、

「え?」

 だから。
 伸ばした腕が何者かに掴まれて体が引き止められた時、マーガレッタは安堵よりも先に唖然とした。何よりもその手の主がエレメス=ガイルその人である事に、ただ呆然とした。
 いつもの剽げた態度も、風のような俊敏さも何もかもをかなぐり捨てて。
 彼は腹ばいに飛び込んで、マーガレッタの手をつかまえていた。

 支点を得てしまった事により、下方向への運動が変換。マーガレッタは研究所の壁に手ひどく叩きつけられる。それでもまだ、驚きと喜びの方が強かった。

「エレメ──」

 上げかけた声は、しかしすぐ悲鳴に変わる。
 伏してマーガレッタを支え、そのまま動きようのないエレメスの体の上に、槍使いがいた。彼からすれば斯様な好機を逃す道理はない。
槍は逆手に持ち帰られ、砂地に突き入れるが如き気安さで、穂先は暗殺者の腹を穿った。

「離しなさい!」

 万力のように強く手首にくい込む指を、マーガレッタは必死に振り払おうとする。けれど、それはびくともしなかった。
 槍が引き抜かれ、もう一度突き立てられる。
 エレメスの体はびくりと震え、しかしそれだけだった。槍使いの存在などないもののように、彼は彼女だけを見ていた。静かな、燃え盛る氷のように強い瞳がそこにあった。

「離して! お願い、エレメス!」
「うるさい。黙れ」

 この手を解きさえすれば、あんな槍など彼を掠めもできないのに。なのに私が重荷になっているから。
 泣き出しそうなマーガレッタの声を、エレメスは冷たく切り捨てる。

「大人しく、助けられていろ」

 絶対に離すつもりはないと、その瞳が告げていた。
 どうして、と思わずにはいられない。
 彼との関係は、偽りのもののはずだった。それぞれの演じる仮面と、それからほんの少しだけのマーガレッタの本当を絡めて織り上げられた、歪な関係であるはずだった。
 いくら肌を合わせ、体を重ねても。溝は決して埋まらなかった。距離はまるで縮まらなかった。心の洞は、黒く虚ろを開けてそのままだった。
 欲しがった月に、少しも手は届かなくて。ただ爪もかからぬ遠さを思い知るばかりだった。
 だから、エレメス=ガイルには少しもないのだ。
 偽りの恋人である自分を庇う理由など少しもないはずなのだ。
 なのに、どうして。

「ハ、化け物同士が仲良く助け合いごっこか? 地獄でやってろよ」

 槍使いが再び穂先をこね回し、そして抜く。次の狙いを頭に定めた。

「言葉の是非は問うまい」

 そこへ、新たな声が割って入った。

「だがその心根すら解せぬのなら。さて、人外はどちらだろうな」

 はっと振り向く男の槍が、甲高い音を立てて宙へ舞った。セイレンの剣が一瞬に絡め取り、跳ね飛ばしたのだ。硬質の刃が、やわらかく巻きついたと錯覚するほどの手並みだった。
 銀光一閃。
 次いで、男の首が得物の後を追う。
 敵対者を逃すほど、この騎士は甘くも優しくもない。友を嬲ったとあれば尚更の事だった。
 
 その間に、驚くほどの力でマーガレッタは石床の引き上げられた。当然ながら負担はエレメスの体に返り、恐ろしい程の量の血が、腹の傷からごぼりと漏れる。

「エレメス、ああ、エレメス!」

 いつもの気丈さ、冷静さはどこへ失せたのか。そんな彼を前に、マーガレッタはただ縋り付くばかりだった。

「死なせたいのか、マーガレッタ=ソリン!」

 まるで稚い少女のようなハイプリーストを、セイレンは叱咤する。滅多に出さない彼の大声に、びくりと身を震わせ、マーガレッタは我に返った。

「あ、私……」
「エレメスを頼む、マーガレッタ」

 こくこくと首肯し、彼女は立て続けに治癒を施術。
 その甲斐あってか、はたまたいつもの見栄か、エレメスがぐいと頭をもたげてセイレンを見た。血に塗れた口で言う。

「悪い、セイレン。警邏に穴を空ける」
「たまには、黙って大人しく助けられていろ」

 友人の頑固さに、セイレンが苦く笑って応じた。


 *


 エレメスの部屋に、転送印を記していたのが役に立った。
 全力を以て傷を癒し、それでもまだ失血で立てない彼に肩を貸し、マーガレッタは転移の門を潜る。血まみれのエレメスの服を短剣を使って引き剥がし、上体を綺麗に拭ってから寝台に横たえた。

「深手でしたけれど、傷はもう大丈夫です。あとは血が増えるまで安静にしていなさい」
「は! 姫手ずからの厚い看護、拙者随喜の極みにござ……」
「黙って」

 いつもなら聞き流す軽口を、マーガレッタは刺々しく塞き止めた。
 
「ねえ、エレメス。私たち、元の関係に戻りましょう」
「……」
「これはお互い人恋しくて、ちょっぴり縋っただけのおままごと。そうでしょう? 本来の貴方なら私なんて落ちるに任せて、あの槍使いの喉笛を掻っ切っていたはずです。でも私がこんな仲を強要したばかりに、付き合いのいい貴方は役割通りに私を優先して、それでこんな怪我を負ってしまった。そんなの、私はもうごめんですわ」

 一瞬だけ俯き、それからマーガレッタは顔を上げる。
 いつも通りに上品で、非の打ち所のない微笑が浮かんでいた。肩にかかってしまった髪を背中に払い、

「今がいい機会です。ずるずると続けないでおしまいにする機会です。今なら私、ちゃんと笑ってさよならを言えます。だからエレメス。もう、終わりにしましょう?」
「……。お前が望むのなら、そのように」
「ええ、そう望みます。そうしてください。次からは、私など見捨てなさい」

 言い置いて、マーガレッタは立ち上がる。
 神様なんて知らない。私は私の事を私で決めて、私の足で歩いていくの。そう放言した少女の頃の自分が、今の自分を見たなら。どんなふうに笑うだろうか。嘲るだろうか。落胆するだろうか。
 背を向けながら、法衣に忍ばせてあるブルージェムストーンを握り込んだ。
 ああ、ここの転送印を消しておかなければと、そう思う。
 もうこの部屋へは来ない。
 彼への想いに封をして、この胸に燻るものをなかった事にして、皆忘れてしまうのだ。
 この名を呼ぶ声の調子も、抱き締める腕の強さも、髪を撫でる指先の優しさも、肌を這う唇の甘さも、求め合った体の熱も、私を見つめる瞳の色も。 
 全部、全部、全部。忘れて、なかった事にして。
 それで平気な顔をすればいい。
 それだけの事だ。
 ほんの、それだけの──。

「やだ、やだよぅ」

 ぽろぽろと自分の目から、大粒の涙が溢れるのがわかった。
 途端足から力が抜けて、綿のようにマーガレッタの体はへたり込む。

「そんなのやだよ」

 気がついた時には、エレメスに抱擁されていた。
 床にぺたんと座り込んだまま抱き締められて、腕の中ですすり泣いていた。まるで小さな子供のようだと感じながらも、止められなかった。

「……怪我人が好き勝手動いては駄目でしょう」

 泣き顔を見られたくないからと言い訳をして、マーガレッタは彼の胸に額を押し当てたままで囁く。

「誰の所為だと思っている」

 その挙措を見て落ち着いたと判断したのか、返すエレメスの声には安堵の色があった。
 
「しかし、一体どうした。何故泣く。全部、お前の望み通りにしただろう?」
「……っ!」

 まったくわかってない物言いに、かあっと血が昇った。
 がばりとマーガレッタは顔を上げ、エレメスの襟首を両手で掴んだ。

「望み通り? 望み通りですって!? どこが私の望み通りだっていうの!? エレメスの馬鹿! 間抜け! 鈍感! 唐変木の土手南瓜! 増上慢の冷血漢! わからず屋の見栄っ張り! もやし! 根暗おかちめんこ! うらなり瓢箪! 駄目人間! なんで私が泣いたと思っているの? 誰に私が泣かされたと思っているの? でも、好きなの。貴方が好きなのよ。もうっ、なんでこの私が泣き落としなんて、もう! 最低!」
「……」

 一息にまくし立てるや、マーガレッタは突き放すようにエレメスを開放した。彼はしばらく呆然としていたが、やがてその頭にも言葉が沁みてたようだった。
 おずおずとマーガレッタの頬に手を伸ばす。

「俺、は」

 しかし、その手は触れずに止まった。どうしようもない壁があるかのように。

「俺は、お前に憧れていた。初めて見た時から、ずっと。気が付けばお前の姿を追っていた。お前の影を探していた。だがいくら手を伸ばそうと陽に届かぬように。ただ憧れるだけの存在だった決め込んでいた。だからお前とこうなった時は、まるで日輪が懐に飛び込んできたように思ったんだ」

 自分の手のひらとマーガレッタの瞳を交互に見比べ、彼は訥々と白状をする。
 罪人の告解のように、彼女はそれを静かに聞いた。

「だが俺の手は血に塗れている。セイレンとは違う。大義もなく意味もない刃だ。俺は無辜の死に塗れている。だから、わからなかった。お前たちとどう接すればいいのか、少しもわからなかった。それで、道化た。そうしていれば楽だったからだ。自分は道化なのだから、このような仲間に恵まれた事こそが僥倖。それ以上を望むなどありえないと言い訳をしていた」

 そうして彼は、縋る瞳で彼女を見つめる。

「お前を泣かせたのは、きっと俺のそういう臆病なんだろう。だがわからないんだ。本当にわからないんだ。俺が、俺などが、お前に触れてもいいのかが」
「馬鹿ね。馬鹿な人」

 マーガレッタは腕を回してエレメスを抱き寄せた。先とは逆に、彼女が彼を抱擁する格好になる。

「もし誰が許さなくても。たとえ神様が許さなくとも。エレメス、貴方は私が許します。この私が、貴方の全部を許します。これ以上に、何が必要?」

 恐る恐るの風情で、彼はマーガレッタに指を伸ばす。彼女は微笑んで動かない。
 数秒だけ、躊躇して。
 今度こそその手が頬に触れた。

「……」
「……」

 エレメスが身を起こす。指は形のいい顎先へ滑り、くいと上向かせる。誘うように、マーガレッタが目を閉じる。
 二人は、初めてのように唇を重ねた。
 エレメスの腕が、マーガレッタの背に回る。マーガレッタの腕が、エレメスの首に絡む。
 くちづけはやがて情熱を増し、彼と彼女はただ無心に舌を絡めた。それが、祈りであるかのように。

「ねえ」

 永遠のような時間が過ぎて、ようやくふたつの影が離れる。
 瞳を潤ませたマーガレッタは、荒い息の下からわかりきった答えを求めて問うた。

「私、重たい女にも程があるわよ。……それでも、いいの?」
「ああ」

 愛しい人の声は、淀みなかった。

「お前がいい。お前が、欲しい」

 ぞくぞくと、たまらないしびれが背筋を走る。
 まるで肉食獣に求められているみたいだと思った。きっと食い殺されてしまうのに、自ら望んで身を差し出してしまうような。そんな、甘い被虐と仄暗い悦び。

「でも、駄目。今は駄目よ、エレメス」

 細くて白い指が、くしゃくしゃに彼の長い癖毛をかき回す。

「だって貴方、怪我人ですもの。続きは元気になってから、ね?」 
「……そんなに、がっついて見えたか」
「ええ、見えました」
「俺は、誘惑された側だと思うがな」

 軽く言い交わしながらも従って、彼は大人しく寝台に横たわる。
 マーガレッタはそれを見届けてから、またブルージェムストーンを手に取った。一人でなければ彼が寝付けないのは承知している。しっかりと休ませなければという判断だった。

「もう、戻るのか」
「ええ」
「……少し、待って欲しい。頼みがある」

 いつもとは違うやり取りだった。
「なあに?」と小首を傾げて、マーガレッタは続く彼の言葉を待つ。

「もうしばらくだけでいい。傍に、居てくれないか。その……お前なら大丈夫だと思う」
「仕方ありませんわね」

 触媒をしまい込み、彼女は椅子を寄せて寝台の隣に腰を下ろした。
 恋人の手を取って、しっかりと指を絡める。もう、はぐれないように。

「ええ、います。言われなくても。望まれなくても。ずっとずっと、貴方の傍に」

 ふっとエレメスの口元に、作り物でない笑みが過ぎった。
 まるで春の日差しのようにふんわりと、心と体があたたかくなる。驚く程に愛おしかった。

 やがて言葉の通りに、エレメス=ガイルは眠りに落ちた。深く、深く。すっかりと心を許して。
 恋しいその寝顔を優しく見守り、それだけでマーガレッタは満たされていた。
 とてもとても、幸福だった。
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鵜狩

Author:鵜狩
鳴かぬなら 鳴くのにしよう 不如帰

 小説家になろうにて物語を書き撲っております。

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